人は思い出にのみ嫉妬する

「人は思い出にのみ嫉妬する」 辻仁成 著
・ ・この物語は、水と思い出を巡る、物語でもある。・・
という文章でこの話は始まります。
戸田悠仁と愛麗と栞と安東準という4人のからみあった恋愛と嫉妬のもつれが、あたかも雨が蒸発し又降って又蒸発するように、人間の愛も心の中に生まれそして消え又生まれると、、、。
結構ドロドロした関係を、水が流れるようにすっきり物語りにまとめてあります。
‘カタリテの私’が物語を進めるので、舞台の劇を見ているような感じの小説です。
辻仁成さんは、売れっ子の作家だけれど、なんだかキザでこれまで敬遠していました。
彼ってフランスに居を移しているんですよね。
この1冊で決め付けちゃいけませんが、やっぱりキザかな。ちょっと苦手かな。
それを確かめるためにも、他の作品を読んでみたくなっております。

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幸福の軛

「幸福の軛(くびき)」清水義範著
清水義範のカラーからは少々異色に感じる社会派ミステリー。
主人公中原雅之は大学の教育学部の助教授を務めるかたわら、臨床心理学の知識をいかし教育カウンセラーとして社会的にも認められている。
<子どもの声なき悲鳴に耳をかたむける>をかかげ大学の研究室から離れて、自分の教育カウンセリング事務所を開くところから話ははじまる。
少年犯罪・イジメ・虐待の事件にかかわる中での、連続殺人事件。被害者を含む関係者の断片をつなぎ合わせるうち、あぶりだされてくる社会の暗部。
問題行動を起こす子どもの背景には、壊れた家族・壊れた社会がある。熱心なカウンセラーである中原自身の中にも潜む暗い深層心理もかぶせて事件が解き明かされていく。
最後に分かる意外な犯人。
著者の作品の中にいつも見え隠れする皮肉な社会の裏表が、ユーモアではカバーできない深刻な問題として浮かび上がります。
教育学出身の著者として、教育に対する問題意識をも提議する読み応えのあるミステリー小説でした。

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宇宙への秘密の鍵

PICT0470.JPG「宇宙への秘密の鍵」ルーシー&スティーヴン ホーキング 著
今夜は十五夜。
まんまるに輝く素晴らしいお月様を仰ぎ見て、今夜にふさわしい本の紹介です。
この本は、アインシュタインに次ぐという有名な車椅子の宇宙科学者であるスティーヴン ホーキンズ博士とその娘ルーシーの共著で、子供たちに宇宙の神秘と素晴らしさを告げたいと願って書かれました。
宇宙全体の不思議についてワクワクするような話がいっぱい詰まっています。
孫のために買い求めたこの本を読んで、私も子どもにかえりすっかり天体の魅力にとりつかれました。
主人公は小学生のアニーとジョージです。
ルーシーのお父さんは宇宙のことを調べるためにコスモスという名前の不思議な最新式のコンピューターを作って研究しています。
そのコンピューターを操ると、ドラえもんに出てくる「どこでもドア」のような扉がコスモスの裏に出てきてそこの中に飛び込むと宇宙を旅することが出来るのです。
アニーとジョージはそのドアから宇宙に飛び出し、彗星に乗り、太陽の回りを飛ぶと言う体験をします。そして地球を外から見て、私たちの地球が壊れやすい特別な惑星であることを理解するのです。
この本では宇宙に隠された数々の真実の鍵を解きあかされていますが、専門家のホーキング博士によるもので想像の世界ではなく、理論物理学にそって宇宙の不思議な仕組みが説かれ、博士の娘のルーシーさんが子供にも分かりやすく楽しい物語にして書かれています。
地球滅亡の危機がささやかれる今日この頃、地球を救うためには、宇宙に目を向ける必要があることに充分納得させられました。
先日、日本のロケットの打ち上げが成功しました。膨大な費用がかかっていますがそれだけ重要な使命をもっています。宇宙開発は金食い虫などと言わず研究に理解を示しましょう!
・・・・息子がロケット開発の仕事に関わっておりますものでつい余計なことまでを、、、。

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ねじまき鳥クロニクル

「ねじまき鳥クロニクル」村上春樹著
舞台は1984年の冬。あ、そういえば最近出版された村上春樹の話題の本題が「1Q84」だから、著者にとって1984年は特別の年なのだろうか?1Q84をまだ読んでいないので分かりません。
第一部・泥棒かささぎ編 第2部・予言する鳥編 第3部・鳥刺し男編からなる文庫本3冊の長編小説です。
主人公は岡田トオル。彼は会社を辞め日々家事を営む有能な主夫で、妻の「クミコ」は雑編集者として働くキャリアウーマンです。それなりに平穏に過ぎていく日々でありました。ところがある日、飼い猫が失跡し、トオルは毎日飼い猫を探し求めるのですが、そのうち妻のクミコまでもが失踪し、色々不可思議な人物や事件に遭遇し夢だか現実だか分からない世界に巻き込まれ妖しい生活が始まります。
そのクミコを探し取り返すまでのストーリーと言えるのですが、ストーリーより著者の訴えたいテーマが、現実と夢(希望の夢でなく眠って見る夢)や妄想をからませて書かれています。村上春樹の小説としては「初めて戦争等の巨大な暴力を本格的に扱っている」と言われていて、妻の失踪を解き明かすストーリーとしては、ノモンハン事件や日ソ兵の残虐な行為など、あまりにも多い複線に戸惑い、ややこしく重い世界観を理解するには、私は未熟者であることが分かりました。でも登場人物はそれぞれ奇抜で惹かれるものがあり面白く読みました。
「1Q84」がBook Offに 現れるのを待っているのですが、早く読んでみたいと思いました。

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きつねのはなし

「きつねのはなし」森見登美彦著
きつねのはなし:古道具屋から品物を託された青年が訪れた奇妙な屋敷。彼はそこで魔に魅入られたのか。美しく怖ろしくて愛おしい、漆黒の京都奇譚集。
小説の舞台を読者がよく知っている場所かどうかで随分面白さがちがうと思う。
「きつねのはなし」の舞台は京都で、京都の中でも私が生まれ育った場所近辺での話で、特別面白く読みました。
現実と妄想とが織り成す妖しい話。
京阪電車、鴨川、荒神橋、出町柳、修学院、北白川(私の生家があります。)、吉田山(京大の横)、浄土寺、鹿ケ谷(ここに母校ノートルダム女学院があります。)、南禅寺、疎水、蹴上、、、。
中でも吉田神社の身も凍るような寒い節分のおどろおどろしい情景は今でもはっきり思い出すことが出来ます。
きつねのお面屋さんやらの出店もあったし、見世物小屋に蛇女とかがいるとかでドキドキしながら前を通ったものです。
‘桜の木の下には死体が埋まっている’とよく言われるけれど、京都って確かに雅の奥に秘められた妖しい雰囲気の漂う街ですねえ。祇園の舞妓さんたちの中にもそんな感じがあるし、、。
京都に興味のある方はそんな世界をのぞいてみてください。

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海辺のカフカ

「海辺のカフカ」村上春樹 著
面白くて面白くて一気に読んだ。
主人公は15歳の少年。4歳のとき少年を父の元にのこし母は姉を連れて出て行ってしまう。それっきり母とは音信普通である。
もう一人の主人公は東京中野区に住むナカタさんという猫と話の出来る不思議なおじさん。
少年はある日父親からかけられたという「呪い」に立ち向かうために四国の高松に何かに導かれるように家出をする。
猫と話せるナカタさんは、昔事故にあって以来、字も読めず計算も出来なくなったのだが、性格は大変魅力的で、猫さんとの会話は絶妙である。村上春樹氏は愛猫家だけあって猫の描写は真に迫っていて面白い。
ナカタさんは猫と会話が出来るので、迷い猫を見つけ出す仕事をアルバイトでしているのだが、ある日思いがけない事件に巻き込まれ四国に向かう。
2人の話は1章ずつ交互に展開していくが、徐々に関連してくるように話は進む。
現実と非現実との境をクロスさせながら、奥深い森に潜む神秘の世界の中に戦争や暴力についての批判精神などがさりげなくしかもしっかりと組み入れられ、とても魅力的に語られる。
15歳の少年田村カフカ君の純粋な生き様と戸惑い、ナカタさんを支えるホシノ青年も良いし、とにかく他の登場人物すべてが訳ありでしかも魅力にあふれている。
夏の終わりに良い本と巡り合えて満足でした。

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天命

「天命」 五木寛之 著
私は、「人事を尽くして天命を待つ」という言葉を、昔から座右の銘にしている。
人事を尽くして努力した結果は、天命なのだから喜んで受け入れるという生き方である。
たとえば息子たちの受験のときも何度もその言葉を使ったものだ。
バザーの売れ上げ結果が多いときは勿論少なくても天命と思い感謝して受けいれる。
客観的に見て結果が悪くてもがっかりはするが後悔しないので、夫に言わせると何事にも反省がなく向上心に欠けるそうである。
<人事を尽くす>といっても、他人から見ると、とても人事を尽くしているようには見えないこともあるようで人をいらだたせることも多々あるが、それは仕方がない。私にはそれだけの技量しかないのである。人の期待に添えなくても仕方がないと諦めが早い。
さて、五木寛之の「天命」の視点は、私の捉え方とは同じようでもあり少し違うような感じもしました。彼によると、天命は目に見えない天(神)の絶対的な意志のようなもので、天命を自分の心の中に置きながら生きるというように使っています。
天命(神仏が示す使命)を深く探りながら生きることを願う五木寛之と、良心に従って生きればそれが天命と安易に信じる私の相違を感じました。
その違いは、戦争中、国のために命を捧げる事が天命と強制的に押し付けられた経験があるか無しかの違いからくるかな思いました。
宗教的感覚(目に見えない世界があるという感覚)が現代求められているということを真摯に告げている深い書物でした。

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阿弥陀堂だより

阿弥陀堂だより 南木佳士著
心が静まり心があったかくなるいい本だった。
背景になる谷中村は7つの小さな集落からなる周囲を山に囲まれた過疎地である。
その地で親から見離され祖母に育てられた上田孝夫は、再婚して東京に住む父親の元に、高校から勉学のため行く。その頃学園紛争が起こりそれについていけない孝夫は同じ思いを抱いていた同級生の美智子と心が通じあう。
美智子は国立大医学部に進学し医者に、孝夫は作家への夢を追い私立大文学部に進学し売れない作家となる。経済的には美智子に頼ることになるがお互いを尊重しあう二人は結婚する。医学界で華々しく活躍する美智子を支える孝夫は自然に家事を請け負うようになり、それなりに幸せな生活を送る。ところが美智子の妊娠から死産で美智子は精神的に病気になり、孝夫の生まれ故郷の中谷村に移ることに決める。
美智子はその村の診療所で月・水・金と働きながら生活で壊れた心を蘇らせてゆく。
この村には、村人たちが昔から守っている阿弥陀堂があり、そこに住む96歳になる堂守のおうめばあさんを通して、地球のほんの小さな片隅で、[手をつなぎあって人間らしく生きる]という、そこにはピラミッド型の上下関係は一切なく、それぞれの持ち味・タレントを尊重しながら輪になって作る世界の清らかさを私に教えてくれました。
この本は映画化され、ロケ地に保存されている阿弥陀堂の横を偶然通ったことがあり、イメージをリアルに感じ取れたことも嬉しかった。

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確かに生きる

PICT0147.JPG「確かに生きる」 野口健著
七大陸最高峰世界最年少登頂記録を樹立した登山家・野口健。
彼はエリート外交官を父にエジプト人を母に生まれ、波乱万丈の初年時代をすごす。
はげしいイジメをうけ小6で親の離婚。成績不良の落ちこぼれ、高校の時暴力沙汰を起こして名門校を退学。
そんな彼が、「ちょっとこの生き方はヤバイんじゃないか」と考え始めていた矢先に、冒険家植村直己の手記に出会い感動し、一念発起アルプス最高峰に挑む。
それからの彼の生き方は筋金入りである。
エベレストに最年少として登頂した野口は、美しい情景はさることながら、ベースキャンプに残されたゴミの山に仰天する。中でも日本隊が捨てていったゴミが目立ち外国隊から蔑視されていることにショックをうけ、山の清掃活動に目覚める。エヴェレストで一緒に行動し遭難死したネパール人シェルパの遺児達のために学校を建てる。
彼は不言実行の人です。というか今地球に何が大切で何をなすべきかの自分の意見をしっかり持ち発表し実行する。
口先だけで立派なことを言う人は多いけれど、なおかつ実行する人はそうはいない。
本書は、第一章:自分の身は自分で守れ。  第2章:落ちこぼれたままでいいわけじゃない。 第3章:道はかならずある。という項目からなり、彼の命を懸けた実体験から詳しく述べられている。
説得力があり文章も読みやすく、生きる目的が分からず彷徨っている青少年に、人生を「確かに生きる」ための指南書となるだろう。
野口健さんは、私がもっとも尊敬する人のうちの一人です。

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依存・からめとる愛

共依存・からめとる愛  信田さよ子 著
最近、認知症になった妻の介護のために、全てを投げ出し介護に尽くす夫の姿が、美談となって話題になることがある。逆に妻が夫の介護をする姿は当たり前でニュースにもならないが。
スクリーンに写し出された献身的に介護する夫は、なぜが生々とし今や生きがいとなって第2の人生を楽しんでいるがごときである。世話をされる妻は認知症という病気のせいもあるかもしれないけれど、無表情でありがたがっている気配は感じられない。
長年,家族援助してきたベテランカウンセラーである著者が解明する、「愛という名のもとに隠れた支配・共依存を解明する!」というキャッチフレーズに興味を持ち取り寄せた。
アルコール依存症の夫(妻)、アダルトチルドレン、ひきこもり、子ども虐待。「苦しいけれど離れられない」という、からめとられる愛、あるいは、からめとる愛。
あまりにも深い人間の深層心理の解明に戸惑ってしまった。それは私自身、自己が壊れてしまうほど苦しい人間関係の体験をしていないからともいえる。そのような環境の中でもがいておられるような知人は何人かおられる。その苦しみに経験もない私が一方的に同情したり理解したりは決して出来ないということをしっかり認識させられた。
飛躍しているかもしれないが、私がネパールの人々と関わりを持つときに、<愛という名のもとに隠れた支配>に陥ってはいないか?又、対応する人々の中に<離れられない依存性>を植え込んではいないか?という警告として勉強させられた。

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