クアトロ・ラガッツィ

「クアトロ・ラガッツィ」 若桑みどり著 集英社文庫(上下)
信長の時代にローマを目指した「天正少年使節」についてはずっと関心があった。
新聞でこの本が、<昨秋突然逝った著者の大佛次郎賞を受賞した懇親の作であり、天正少年使節にまつわる壮大な叙述>と紹介されていたのですぐ飛びついた。
文庫本とはいえ分厚い上下巻で、その上肝心の4少年について各個人の記述は少ない。しかし当時の東西世界の時代的背景・西洋文明と日本文化と権力者の精神的葛藤を膨大な資料を読み解き示しながら4少年の生き様を読者の心にくっきりと浮かび上がらせる技法は見事で凄い本です。
日本の戦国時代末期と帝国化していく世界とがどのような形で邂逅していくのかがリアルに分かり私にとって新しい知識の発見に胸をドキドキさせられ読み進めるのが惜しくなるような感動の本でした。
ただ宣教師の名前や日本の大名の名前とその血縁関係者の名前が漢字の読み方が難しかったりしてややこしい。日本人でも洗礼名で書かれていたりするとそれもややこしい。
だから紙に登場人物と年代を書きながら読みました。

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走ることについて語るときに僕のかたること

「走ることについて語るときに僕のかたること」村上春樹著 文芸春秋社
村上春樹氏の作風から天才的(物語が身体から湧き出るように出るのを文章にまとめていく)作家かと思っていたのだけれど、彼のエッセイなどを読むと小説家という職業人であるらしいことが分かってきた。
彼が小説家になろうと決心された時からずっとマラソンを続けてこられたとはこの本を読むまで知らなかった。
この本は<小説を書く>という頭をハードに使う仕事の癒しのためにマラソンを続けてこられた記録である。
疲れを癒すには、身体をリラックスさせて休息するのが一番と思っていたが、仕事と違うジャンルのものに没頭することも疲れをとる手段なんだと納得させられた。
マラソンのようなハードな趣味に没頭させるほど小説を書くことは彼にとってハードな仕事なのだとも思わされて妙に感心させられてしまった本でした。

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蛙男

「蛙男」  清水義範 著  幻冬舎
清水義範さんのファンです。
彼の小説は、普段見落とされがちなもの無視されるもの不運な人のこと等に焦点をあてて、読者を驚かせ楽しませるところが面白いのです。
この「蛙男」も私にはけっして思いもつかない発想で驚かされた。
私に見えているものは他人も同じように見えているとどうやって証明できる?
自分に見えるのに他人には見えないものがあるかもしれないと思いませんか?
主人公の滝井道典はある日鏡に映った自分の顔色が悪いのに気付く。
疲れがたまったかなと放っておくうちある日自分の手が緑色になり蛙の手のように変わってしまうのに気付く。
ずっとではない。時々である。
その後その変化が体中に広がるのだけれど他人からみれば何の変化もないらしい。
それがどんどんエスカレートしていって、、、。
という話です。結末は?怖い、、。
「現実に起こりうるわ」と思わされ引き込まれるのだけれど、やっぱり現実的には起こらないだろうと「ふ?っ!」と息をつかせるすごく面白いお話です。

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受験のシンデレラ

「受験のシンデレラ」 和田秀樹 著 小学館文庫
主人公の卒業した学校が、ウチの近所にある全国1の東大進学校「灘校」で、映画化もされ話題になっているこの本を友だちが面白かったというので読んでみた。
主人公五十嵐は灘校から現役東大の医学部に進学したのだが医者にはならずに東大進学塾を立ち上げ「受験界のカリスマ」と呼ばれ莫大な富も名声も手にしていた。しかし親友の医師からガンで余命1年半と宣告を受ける。
そんな時高校を中退し学力もなく荒んだ生活をしている少女に偶然出会うことになり、残りの人生で彼のあらゆるテクニックを駆使して彼女を東京大学に合格させようと決心する。
そして2年。見事少女を東大合格に導き命を終える。
この本は、プロ野球選手を目指す「巨人の星」のような根性物、又は究極のゴルフ上達方法というようなハウツーものと同列のものだと思った。
この本では目指すものがプロのスポーツ選手ではなく東大合格であるのですが、目的達成の為ののめり込みようや技の取得方法はスポーツのトレーニングも受験勉強も同じなんですね。
東大を目指し進学校(塾)で勉強勉強に明け暮れるのと、プロサッカー選手を目指しスポーツ推進校とかでサッカーに明け暮れて過ごすのとなんら変わりがないんだと気付かされた。
孫にはプロの選手になるより楽しくスポーツをさせたいと思うし、東大でなくても身の丈に合った大学が良いと思うし、それは世間一般の人の考えと思うのですが、この本がベストセラーになった理由は何なんでしょうか?
目的達成の過程で学ぶべき精神的葛藤のようなものもありますが、目的が私にはあまり縁がないので役に立たない本でした。

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誇りを持って戦争から逃げろ!

「誇りを持って戦争から逃げろ!」 中山治著 ちくま新書
近未来には戦争に巻き込まれるだろう日本について真剣に考えさせられた本でした。
報道で知らされる世界情勢を見聞きするたび、又、ネパールから戻るたび、「日本は平和でいいわ?!」といつも思ってきました。
それは日本国憲法9条の戦争放棄の取り決めがあるからこそ今の平和があるということがこの本を読んでよく分かりました。
そのことは私も絶対その通りだと思うし断固改正には反対の立場です。
しかし著者も言っておられるように「断固として改正反対!」と叫んでも愚かな政治家によって恐らく憲法は近未来に改正されると私も思います。そして日本はアメリカに利用されて戦争に巻き込まれ多くの若者が他国で傭兵として戦わされアメリカのために命を落とすでしょう。
では「戦争に荷担するのはいやだ」と思っている者はどうすればいいのか?
著者は<逃げること>だけが我々に残されている最善の誇り高き解決策だと述べておられます。
「サウンド オブ ミュージック」のトラップ一家のようにとおっしゃいますが、そんなん無理ですわ。
日本は島国だし、、。
じりじりと政治的にも経済的にも非常に危険な時代を迎えるのは誰の目から見ても明らかです。
息子達には権力者にいいように利用されることなく、この時代を生きぬいてもらわないと心配なので、読ませなくちゃと思い2冊取り寄せました。
日本中の人々に読んでもらいたいと思った本でした。

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深泥丘奇談

「深泥丘奇談」  綾辻行人著 メディアファクトリー発行
新聞で紹介されたのを見てすぐ買いました。
京都に私が子どもの頃からよく知っている今でも独特の風情を残している深泥池(ミドロガイケ)というところがあり、その近辺で起こるシュールなミステリーというのが面白そう、、と思ったからです。
帯には、<作家が住まう“奇妙な京都”を舞台に、せめぎあう日常と超常、くりかえす怪異と忘却、、、。
読む者にも奇妙な眩うん感をもたさずにはおられない、たぐい稀なる怪談絵巻。>とあります。
まず本の装丁が凝っていて素敵、イラストが何ともいえない雰囲気をかもし出す墨絵でしかも可愛い。
こわ?い話ではあるけれどユーモアがたっぷり。
深泥池が深泥丘。比叡山が紅叡山。五山の送り火の大文字山が人文字山。怪しい病院が舞台になっているが、私はあの辺に、今では差別用語で口に出来ないが<気狂い病院>とヒソヒソ言っていた病院が昔あったことも知っている。
つまり京都のあの辺のことを知っている読者は倍は楽しめます。
それぞれ関連させながらの短編9編からなりますが、サムザムシという話が一番面白かった。
これから読む人のために内容は言いませんが虫歯のムシがヒント。
綾辻行人という作家を知らなかったけれどファンになりました。他の本も読んでみたい。

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愛のひだりがわ

「愛のひだりがわ」筒井康隆著 岩波書店
日本の、否、地球の未来は暗いという思いが強くなってきています。
この本の時代背景は何年か後の荒廃しきった日本です。
荒廃の有様はとてもリアルに描かれてあります。警察は役に立たずみな生きるために自警団を作り銃で身を守るような世の中です。
ご多分に漏れず不幸を背負った小学生の愛ちゃんが母に死なれ孤児になり何年か前に母娘を捨てていった父を求めて一人で旅に出る物語です。
危険がいっぱいの旅だけれどいつも危機一髪で誰かに守られる愛ちゃん。
スリル満点、怖いけれど夢と救いのあるいいお話で感動しました。
小学生の孫にも是非読ませたいなと思ったのですが、気が付くとちゃんと漢字にカナがうってあります。
児童書だったのですね。
こういうのが大人のための童話というのでしょうか。
お勧めです。

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白夜行

白夜行 東野圭吾著  集英社
またまた東野圭吾のミステリーを図書館で見つけて借りてしまった。
これも「流星の絆」と同じく2人の子供(小学6年)の復讐劇である。
この本は帯に書いてあるように<二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪。・・・息詰まる精緻な構成と、叙事詩的スケール。心を失った人間の悲劇を描く、傑作ミステリー長編!>。
そのままずばりです。
時代は1973年から1990年。私の息子達が生まれて大学生になった頃まで。
私達のような幸せ家族の影にもこういう訳有り家族も生活していたとはその頃の私は情けないことに気付かなかった。
高度成長の始まりから終焉にかけての話でコンピューターが使われ始めたと同時に悪の先取りというか企業秘密の漏洩がからみとても面白い。
最近のミステリーにはあまり出なくなったタバコの煙をゆるがす刑事。携帯電話はまだなくもっぱら電話。
超過酷な体験を強いられた子ども達からの復讐劇なんだけれど<<許し>>という姿がないのが気になる。
それは私のように復讐にとらわれるような体験をしていない者の気楽な考えなのかもしれない。
それに許しが出てくるとミステリーの面白さも半減するだろう。

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流星の絆

 
流星の絆 東野圭吾著 講談社
2年程前、福岡で幼い3人の子供と両親が乗った車が飲酒運転の車に追突され海に投げ出され3人の子供が亡くなった痛ましい事件がありました。
可哀相で涙なしでは読めないニュースでした。
その後飲酒運転に対する法律が強化されご両親は赤ちゃんにも恵まれ人生の再出発への希望が少しは持たれたかもと思っています。
もし逆に3人の幼子がのこされ両親が理不尽な殺され方をした場合、子供達の将来はどんな過酷な人生が待ち構えていることでしょう。
「流星の絆」は、幼い仲の良い3人の兄妹が両親に内緒で流星を見るために夜中に家を抜け出し帰って見ると両親が殺されていたという設定で話が始まります。
施設に収容された子供達は兄は弟と妹を守り弟と妹は兄を慕いながら成長します。そして成長した3人は殺人犯を見つけ出しチームプレーよろしく復讐するミステリー小説です。
意表をつく展開でぐいぐい読者を引き込みます。若者の深層心理が分かりやすくすっきり書かれていて後味のいい小説でした。

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キリストの棺

キリストの棺 シンハ・ヤコビッチ チャールズ・ベルグリーノ共著 発行:イースト・プレス
イエス・キリストが実在したことを実証したドキュメントである。
どのような方法で実証したかと言うとイエスの墓を探し出し中に葬られていた骨棺のDNA鑑定などして証明している。
イエスの墓にはイエスとヨゼフと二人のマリアとイエスの弟ヤコブという銘のある骨棺があった。
でもイエスもマリアもヨゼフもヤコブも全てありふれた名前で、それだけではそれがキリスト教で信じられている聖家族の墓なのかどうか疑問に思う人は多い。それを膨大な資料を積んでキリストの墓であることを実証しているのである。
私はカトリックの幼児洗礼を受けているのでイエスの存在を疑った事はない。
イエスが「神」なのかそれとも「ただの偉大な人」であったに過ぎないという意見があるであろうことは十分認識しているが、イエスの実在事態を信じない人がいることを知って驚いた。
このドキュメントで「さあ、これでイエスが実存していたことが証明された!」という感動を知らせようとしているのだけれど全くしらけてしまった。でもマグダラのマリアについてはカトリックでは重要視されていないので説得力ある検証を中々興味深く読むことが出来た。
多分イエスの墓は事実であろうと思う。しかし神あるいは聖人と信じられている方の墓を、実在の証のためにこのように不遠慮に墓を暴き得意がっていいものだろうか?
今年は3月23日がイエスが死んで3日目に復活した日を祝うイースターである。
イエスの復活は、肉体的な身体が天に昇っていったのではなく霊の身体であり、肉体(骨)の一部が発見されても聖書に述べられている受難と復活の事実に矛盾するものではなく「世界を震撼させた新発見の全貌」という興奮には全くついていけない本であった。

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