【波切り草】 椎名誠著 文春文庫
著者の自伝的青春小説。
椎名誠といえば小説家というより海が舞台の探検家とイメージが強いのだけれど、彼の育ちはこうだったんだと楽しくよみました。
25年ほど前彼の講演会を聞いて以来のファンです。(小説家としてより探検家としての生き様が)
小学校6年頃から高校2年までの松尾勇という俺の語りで進められます。
中学1年のころ父親が亡くなり、母と2人の兄と一人の姉、そして自分と一人の弟との6人家族。
裕福とは決して言えないどちらかと言うと貧しい海辺の暮らしの生活。
漁師になりたいという淡い夢を持ちながら、周りの人々の意見を聞いて、それは無理だとわりあい簡単に納得して進路を決めてゆくというごく普通の真面目な少年。
私の息子たちもそんな感じだったし孫息子達もそんな感じ。
友達とのなにげない会話。喧嘩したり嫌な目にあったりしても、それなりに流していける優しくて真面目な性格。
でも一つ一つのことには体当たりに真剣に取り組む姿勢。中でも高校体育祭での競技「棒倒し」に対する情熱は、先日孫の体育祭で棒倒しの熱戦があったので面白かった。
それらの貴重といえる体験が、本人の無意識なうちに身に付き育っていく道程が伝わってくる。
「波切り草」という題も淡々とした物語の中に深い作者の思いが隠されているのが分かる。
こういう風に子どもって成長していくんだとしみじみ嬉しくなる物語でした。