奉教人の死

「奉教人の死」 芥川龍之介 著

「鼻」「くもの糸」「芋粥」「羅生門」「杜子春」他数々の名作を上梓し35歳で自殺をした芥川龍之介。

彼の作品には4つのジャンル「王朝もの」「時代もの」「児童もの」に加えて「キリシタンもの」があるということを友人のY.H女史から教えてもらって初めて知りました。

彼女おすすめのキリシタンものの中から「奉教人の死」を早速アマゾンから取り寄せた。(新潮文庫430円也)

(「奉教人」というのはキリスト信者のことを言います。)

1549年イエズス会神父のフランシスコ・ザビエルが鹿児島に上陸し、多くの奉教人、キリシタン大名を生み出してから、徳川時代までにわたる間の、禁令と拷問に屈せず殉教したキリシタンたちの物語を、龍之介は遺された逸話や史実に基づいて数々の短編小説を書いたのです。

「奉公人」は11の短編小説からなっています

私はカトリック教徒でもあり殉教者の人々を聖人とおもい敬っていましたが、芥川龍之介はキリシタンの人々も、特別な人間ではなく、悩みも持つ喜怒哀楽をもつ人々であり、またそうであるからこそ彼らの生き様は人の心を揺さぶるものであったということに興味を持ち小説にされたのではないかと思いました。

中でも、さもありなんと考えさせられながら読んだのは、明智光秀の二女の細川玉、洗礼名ガラシャの殉教までを書かれた「糸目覚書」です。夫人の侍女糸目がお側に仕えながらメモしたという形態で書かれています。糸目はキリシタンには無関心な侍女です

私は細川ガラシャ夫人を超人的な罪の汚れのない純真な聖なる殉教者としてイメージしていたのですが、どうもそれだけではないらしかった。おらっしょ(祈り)を唱えながらも苛立ったり威張ったりするガラシャ夫人の日常の様子を遠慮もなく日記(覚書)として書かれた小説なのです。

滑稽で人間味溢れたガラシャ夫人。と言えば不謹慎と言われかねませんが、今までよりもさらに敬う気持ちになりました。

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ホーリーマザー・ポイズンドーター

「ホーリーマザー・ポイズンドーター」 湊かなえ 著

「聖なる母によって拘束された娘」とでも訳しましょうか、娘に自分の思いのたけの愛を注ぐ母親と、それに逆らえず人生を狂わされてしまった娘(息子)の話とでも言いましょうか。そんなお話が6話語られる。

湊さんの作品は人物の突き詰め方に容赦がない。心の奥底に隠し持つ黒い塊を的確に探り当て、引っ張り出して白日の下に晒す。(清水友佳子解説より。)

私もそう思う。聖なる中に醜悪が潜み、弱者の中に強者が潜む。

救いのない結末の中にももがきながらも生きる人間への愛と祈りが込めらている(清水友佳子解説より。)

私もそう思う。

おそらくこの本を読んだ人は、自分にも心当たりがあると思うに違いない。

私にもある。

そういう親子関係で悩んでいる最中の友人知人がいる。

この本を読むと自分の親子関係を見直し他人への慈しみ思いやりの心が芽生えて静かな気持ちになれる。

とても良い本。万人によんでもらいたち本でした。

 

 

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神様の住所

「神様の住所」九螺(くら)さらら著

2019年を迎えました。

お正月にふさわしい呑気に楽しみながら読める本として革新短歌作者“くらさらら”さんの「神様の住所」を手に取りました。

現代短歌の先駆者、俵万智さんの「この味がいいねと君が言ったから7月6日はサラダ記念日」という句が出て話題になったのは30年も前のことでした。

現代短歌にはあまり馴染みがないのですが、カバーにある「短歌がいり口で、宇宙が出口」という、革新短歌の宇宙を、哲学的な輝きで新たに飲み込むという紹介文に惹かれて買いました。

本書の楽しみ方として、<テーマに応じた短歌を冒頭にして、その短歌についての解説とも読めるような散文、そして最後にまた短歌、という項目が全部で84ほど収録されています。>とあります。

さて、楽しみながらページを繰ったことは実にはっきり言えますが呑気には読めませんよ。

深く・じっくり・考えさせられる・楽しく・面白い・考えもつかない発想の項目がぎっしり。

1項目2~3ページですがその1項目で手が止まり頭が回転、、、、。

たとえば

・部首の項  空の部首はあなかんむり宇宙はうかんむり空は穴宇宙は【果・端】のない穴

→雑感→乙の名はつりばりである乙女とは春を釣り上げる清きフェロモン

・ふえるワカメの項  クローンとかAIとか言う前にふえるワカメの森に行こうよ

→雑感→竜宮で浦島太郎がお土産にもらった箱には増えすぎるワカメ

・ものごころの項  ものごころついたころからみぞおちの辺りに棲みついたかなしい魚

→雑感→「ものごころ植物園」に入ってくそこらじゅうで発芽するものごころ

読みたくなりませんか?裏切られません。1700円の価値あります。

おりしも昭和天皇が推敲されたという和歌の数々が発見されて新聞に取り上げられていますが、5・7・5・7・7の五句31音の中にここまで心に湧き出る思いを深く表すことのできる和歌ってすごいなあと今更ながら感動し、日本古来の文芸を大切に守りたい、というか、守ってくれる人がいてほしいと思いました。

 

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シャーデンフロイデ

「シャーデンフロイデ」 <他人を引きずり下ろす快感>中野信子著

著者の中野信子さんは最近テレビにもコメンテーターとして出られることがあり、おっしゃることに同意することが多くどんな女性なのか関心があったのでこの本を手にしました。

「シャーデンフロイデ」というのはドイツ語で、誰かが失敗したときに、思わず沸き起こってしまう喜びの感情のことだそうです。

「他人の不幸は蜜の味」という格言?日本にもありますよね。

私もそんな気持を持つ自分に気づき自己嫌悪におそわれることがあります。

そのような感情は欠陥ではなく人類みな持っている感情であることを脳学者として解明された書です。

そのDNAについて、中野先生はわかりやすく解説してくださっています。

太古の昔から嫉妬心や優越感から戦争殺戮が繰り返されるのはそのDNAのためで、現にその行為を危惧する宗教者や哲学者や著名人たちの意見もあります。(政治家には少ない?)人が持つ良心が、混乱を修正してくれます。

DNAの感情はオキシトンというホルモンが脳内に発生し気に入らない他者を殺そうとするらしいです。。

攻撃と抑制のバランスが世界の平和を保つために重要なのです。

そのへんのバランスについて去年6月に紹介した箒木蓬生の「ネガティブ・ケイパビリティ」にも書かれてたなあと思い出しました。

脳学者中野信子さんの説明をなるほどと興味深く読みましたが、ここであなたに解説する力が私にはないので、どうぞ関心のある方は是非読んでください。

ちなみに天地万物を創造された神が最後にお創りなったのが人間(アダムとエヴァ)で神は二人を楽園に住まわせました。

ところがこの二人は悪魔の誘惑に負け罪を犯し楽園を追われることになり、子孫はそのDNA(罪の源 原罪)をもって生まれ、その罪を持った人類が増え続け現在に至っています。つまり性悪説です。

人間の赤ちゃんすべてはそのDNA(原罪)を持って生まれるのでキリスト教(カトリック)では、洗礼によって罪が贖われると言う教えがあり、私も幼児洗礼を受けました。が度々罪を犯すのでDNAを消し去ることは難しいようです。

 

 

 

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鏡の背面

「鏡の背面」 篠田節子著

大手出版社社長の令嬢として生まれ、親から受け継いだ莫大な資産を、アルコールや薬物依存、性依存、自傷行為といった問題を抱える女性たちの救済のために自らの人生を捧げ、彼らと生活をともにしていた、神様とも言われるぐらいに尊敬されていた小野尚子が宿舎としていた軽井沢の新アグネス寮に火事が発生し、尚子は女性たちを助けて焼死する。

ところが警察の遺体の検証の結果、焼死したとされた小野尚子は別人であることが判明する。

その別人は別件で連続殺人犯と疑われている半田明美ではないかという。

小野尚子は半田明美に殺されたのだろうか?何処で?半田明美が小野尚子に入れ替わることは可能なのか?

その事件をスクープしようと女性ルポライターの知佳が真相を追うというミステリー奇怪小説です。

知佳が事件を追う形で話がすすむので、どうしてもインタビューや残された日記などから話が展開する。

内容はおどろおどろしくミステリーの中に深い問題意識も含まれているのにかかわらず、現実味が薄いのが残念だった。

ハードカバーの長編小説でずっしり重く、正直2000円もしたから最期まで頑張って読んだというのが真相。

渾身込められて書かれた力作だということはよく分かったのですが、篠田節子さんごめんなさい。

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みぞれ

「みぞれ」 重松清 著

重松氏の著作では「疾走」と「卒業」を紹介しました。

とても感動した本でした。

今回紹介するのは11作からなる短編集です。

どれもとても面白く読みました。

重松清の本のテーマの根底にはどれも「話したっけ、俺の知り合いにこんな奴がいるんだこれけど、、、」というお話で成り立っている。

たとえば「ちびまるこちゃん」「ドラえもんののびた」がもし中学校高校生になったときの家族の情景を想像して、、、。いじめ問題、恋愛問題、親の仕事の失敗などの喜非劇が深刻だけれどありふれた問題が物語となるんじゃないかと思うような、他人事ではないなあと、ぐいぐい惹きつけられていくといった感じ、、。

今回の11作もどれも興味深く感動を呼ぶ物語でしたが本の表題になった「しぐれ」を紹介します。

晩年を迎えた両親との付き合いに、戸惑い、複雑な思いを抱く43歳の息子の話である。

 

・・・・・・

父は年老いた。

母も年老いた。

そして二人はいずれーうんと遠い「未来」や「将来」ではないうちに、僕の前から永遠に姿を消してしまう。

いつの頃からだろう、僕は両親の死を冷静に見据えるようになっていた。

・・・・

 

主人公の親は75歳ぐらいで、私の場合と比べると両親も息子も5歳ぐらい若い。

なのに両親との付き合いに戸惑いながらも真剣に考えている。

私の息子たちも考えているんだろうか?そんな素振りはないなあ。

私の場合は私一人が「私の最期」を考えているが、夫も息子も考えているように見えない。が本当のところはどうなんだろうと、考えさせられる深い本です。

最後には必ず重松氏独特の感動のオチが用意されていて胸にじ~ん目がウルウルとなります。

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おひとりさまの最期

[おひとりさまの最期]  上野千鶴子著

上野さんは、日本における女性学・ジェンダー研究のパイオニアである社会学者。東京大学名誉教授でもある。

私は彼女の著作やエッセイなどを読んでは感動し目からうろこ、学ぶことが多くて信頼している。

「おひとりさまの最期」は、誰にとっても必読書であることを確信しお勧めしたい。

今地球に生きている人々全員100%命を終える。私もあなたも。

一人で,または数人一緒に,日本で、外国で死ぬこともあることも稀にあろうけれど死にます。

この本では現在の日本で、ひとりで死を迎えることになる私またはあなた、またはおひとりさまの親を持つ息子娘、への指南書である。

16章にわたって書かれています。

1章・み~んなおひとりさま時代の到来

2章・死の臨床の常識が変わった

3章・在宅死への誘導?

4章・高齢者は住宅弱者か?

5章・在宅ホスピスの実践

6章・在宅死の条件

7章・在宅ひとり死抵抗勢力

8章・在宅ひとり死の現場から

9章・ホームホスピスの試み

10章・看取り士の役目

11章・看取りをマネージメントする

12章・認知症になっても最期まで在宅で

13章・意思決定を誰にゆだねるか?

14章・離れている家族はどうすればよいのか?

15章・死の自己決定は可能か?

16章・死にゆくひとはさみしいか?

あとがき

題目をこうして掲げるとなんだか恐ろしい感じがしますが全然そんな感じではありません。

ふん、ふん、なるほど、なるほど、それは知らなかった、そうだよねえ。と納得と安心感を覚える本でした。

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羊と鋼と森 

羊と鋼の森  宮下奈都 著

この「羊と鋼と森」は本屋大賞を受賞し映画化もされて友達からも勧められた本です。

ピアノ調律師を志す1少年外村(名前は出てこない)がプロとして成長していく過程がテーマと聞いていましたが、題名の意味が分からなかったのですが、読んで解明しました。

ピアノは打楽器でありその調律とは、弦を叩く《羊毛》に包まれたハンマーとピアノを構成する弦などの《鋼》を調整し、正しい音階を奏でられるようにする仕事です。しかし間違いのない音程調節であっても、そこにはピアニストが求める微妙な響きが求められていて、外村は彼が育った《森》からの空気が醸し出す音を求めます。

外村は高校生になっても、具体的な生き方をつかめ取れないぼんやりした生活をしていましたが、ある日学校の体育館のグランドピアノを調律に来ていた板鳥という調律師の音を聴き鳥肌立つような衝撃を受けました。

その音は彼が子供の時から慣れ親しみ無意識に育まれていた森の香りが漂い、これまで体験をしたことのない感動を得て、即、調律師になりたちという気持ちに結びついたのでした。

私は過去にピアノを調律されている現場に出あって、調律後に調律師の方が見事に演奏されるのを聴き驚いたことがあります。

調律師がすべてピアニストと思っていたのですが、外村はピアノを全く弾けないのに調律師を志しそれを受け入れる先輩たちにも驚きました。

この本では、外村少年の調律師としてプロになるまでの成長をとおして、ピアノという楽器の奥深さ、ピアノだけではなく、音楽がどれだけ人の心を和ませてくれるのかを、彼の成長とともに教えてくれる本でした。

私達を感動させてくれるピアノやヴァイオリンやオーケストラの演奏の裏にはそれを支える何人ものプロフェッショナルなスタッフがいることを再認識させてくれる本でした。

ピアノ演奏を楽しんでいる方たちには必読の本。

普通の音楽好きな人も感動する本です。

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光の海

「光の海」 津村節子 著

2009年6月22日に紹介しています。

感想書いていますので読んでみてください。

内容はすっかり忘れていていましたが読みながら思い出しました。

10篇ある短編のうち「光の海」を取り上げて、「自分は雪江のようにはならないだろう」と述べていましたがが10年経ってもまだその考えに変わりはなということが可笑しいです。

「光の海」の他の九編もとっても面白い。

古本をバザーで売るつもりで「どれでも50円」と書いた箱に入れていたのですが内容を忘れていて再読しました。

名作です。特に私と同じ年代の方たちにお勧め!

10年の間に、メールやスマホが一般に普及し、家族のあり方は随分変わってしまって、若い読者にとっては、まどろっこしいところもあるかもしれません。

でも私は、通信手段がまだ少なかったこの小説の時代を生きてきたので10の短編一つ一つをリアルに体感できとても楽しく読みました。

 

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未来

「未来」湊かなえ著

10歳の女の子、佐伯章子のもとに、一通の手紙が届く。それは20年後の章子からの手紙。

手紙には「二十年後の章子です。あなたは今お父さんを失った悲しみ、発達障害を患っているようなお母さん、教室ではいじめを受けて、、なにかと辛い思いがあると思いますが、20年後のあなたは、胸をはって幸せだと言える人生を歩んでいます。悲しみの先には光差す未来が待っています。頑張れ章子!」とあり、文章にして気持ちを綴ることを勧めていました。

そこで章子は20年後の自分にお手紙を書き続けていきます。

その手紙の中から、章子の日常。お父さんとお母さんの秘密、いじめっ子の亜里沙、べたべたついてくる美里、教師、母親を取り巻く大人の関係、男友達、、、、。それぞれが深い事情をもつ家庭の事情が描かれています。

章子や章子を取り巻く環境はどれもが衝撃的なエピソードで埋まり「そんな~!ありえな~い」といった感じの辛く苦しい事実の連鎖ですが、だんだん「ありえるありえる」とも思わされ、20年後の章子が書いてくれた、「あなたの未来は光が差しています」の文章に読者の私までが心の片隅に安堵の気持ちを持ちながら読み進められました。

第1章は章子の手紙

第2章は教師のエピソード 第3章は男子生徒のエピソード 第4章は未来に希望をもちながら進む章子のエピローグ。

「ああ、ありえるありえる」と思わせるに至った湊かなえの筆力には感動を覚えました。

文中で教師が口にしたセリフは湊ワールドに欠かせないメッセージだなと思いました。

・・・

人の数だけ暮らしがあり、人生がある。他人の人生に自分のものさしを当てて口に出すことは、とても恥ずかしい行為なのだ。

・・・

とても読みごたえのある小説でした。

直木賞候補作らしい。お薦めです。

 

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