「優しいおとな」 桐野夏生著 中央公論社
今日本では子どもの貧困が話題になっている。6人に一人が貧困におちいっているということである。
こども虐待、親の子育て放棄、親の蒸発。一人ぼっちになったこどもには児童養護施設という暖かい環境が用意され保護されるというのは、甘い考えのようだ。
赤ん坊で施設に預けられた子どもは、もちろん自分の名前も両親のことも全く知らずに育つわけで、子どもの情緒は安定しないのは当然かもしれない。
この物語は、家族をもたず、愛を信じることを知らないで育った施設育ち少年イオンの孤独な魂の道程。想像を絶するいきざまを追った本である。
施設という檻から自由を求めて脱出して生きることを決めた14歳のイオン。同じような境遇の少年たちと共に、公園や地下道を住処にしているホームレスの世界を渡り歩く。
おとなには、優しいおとなと、優しくないおとなと、どちらでもないおとなの3種類しかないとイオンは言う。
優しいおとなは滅多にいない。優しくない大人からはすぐ逃げろ。一番僕達を苦しめるのは、どっちちかずのやつらだ。
イオンにかまう、モガミというNGOの優しいおとな?どっちつかずのおとな?も重要な登場人物である。
この本を読んで衝撃を受けた。これまで途上国でストリートチルドレンの姿を何度も見かけたが、どこでどんな生活をしているのだろうと、人事のように同情していただけかと気付かされた。
この日本では私は見かけたことがないのだけれど、家族や住む家もなく食べ物も毎日探しまわりながら生活をする子どもたちが存在するのだ。子ども達だけではなく、同じく大人もいる。
政府が用意してくれる施設より自由な公園を選ぶホームレスが多く存在するというのは、どういうことなんだろう。
社会からはみでた人々に対する、人間としての尊厳をどこまで考えているのかが問題なのかもしれない。
日本の将来を考えさせられる物語であった。