星の国のアリア ひのまどか著
よそのお宅にお伺いしたとき書棚があると覗き見するのが好きです。
並べられた本を見ると持ち主の心の中が見えるようで興味深いのです。
先日義姉の所に行ったら本棚にひのまどかさんの音楽の本(主にクラシック音楽作曲者の自伝小説)がずらりと並んでいるので、「ああ、音楽好きの義姉だからなあ」と思いながら「ひのまどかさんが好きなの?」と訊ねてみると、「ひのまどかさんは私の従姉妹なの」という返事。中でも「星の国のアリア」が面白かったと薦められました。
義姉はコーラスの趣味一筋で生きてきた人なのでオペラの本は面白いかもしれないけれど、私はオペラはどうも苦手だし、、と思ったのですが、せっかくの義姉の薦めだからと読み始めたら面白くてぐいぐい引き込まれました。
興味のない分野の話に読者をここまで引き込ませるのは、ひのまどかさんの文筆が巧みで、時代背景が実に丁寧に分かりやすくえがかれているからではないかと思いました。また著者も芸大で音楽を学ばれ音楽の知識が豊かにあるうえ、音楽表現には欠かせない心情をも深く捉えておられるのが凄いなあと思いました。
さて、「星の国のアリア」は、1905年、リムスキー・コルサコフがロシアでの「血の日曜日事件」と呼ばれる大虐殺のあと一気に書き上げたというオペラ<金鶏>にまつわる物語です。
このオペラは絶賛されたのにかかわらず、独裁者への批判が込められているということで、上演禁止となった幻のオペラでした。
当時スターリンの独裁のもと、それに反発する芸術家は次々と弾圧され抹殺されていた時代で、多くの芸術家は外国に亡命したのですが、その中にロシアで有名だった女性オペラ歌手リーナ・ニコラーエヴナがいました。
リーナは夫と幼い息子の家族3人で日本の音大に招かれ亡命するつもりでしたが、出国直前に夫が急死し母子2人で日本に亡命するはめになり、東京音楽大学に勤めます。1933年のことでした。
やがて息子が結婚し女の子百合が産まれますが、それからリーナは、百合に将来ロシアのボリショイ劇場でオペラ金鶏のプリマ・ドンナとなる夢を密かに託し、オペラ歌手になるように教育するのです。
すくすくと美しく素直に育った百合は東京芸大に進学しオペラ歌手に成長します。
ロシアでは1985年ゴルバチョフのペストロイカ以来言論の自由が認められ幻のオペラ金鶏の復活が実現したのです。
その時ソビエトに留学し音大の大学院生だった百合はオーディションに合格し、ボリショイ劇場で開催される金鶏の復活公演で主役を歌うソプラノ歌手に抜擢されたのです。
という、サクセスストーリーと言えるかもしれませんが、私は声楽については初めて知ることが多く、驚きと感動に満たされながら読みました。
オペラ金鶏を観てみたいとつくづく思わされました。
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