「(続)思い出株式会社」土屋嘉男(1927-2017) 著
著者の土屋嘉男氏は黒澤明映画監督に見いだされた著名な映画俳優で、有名な黒澤映画「七人の侍」でも重要な配役だったそうです。私は時代劇が好きではなかったのが「七人の侍」だけは観て非常に感動したことを覚えています。でも七人の侍の中では三船敏郎と志村喬しか覚えていません。七人の内の一人が土屋嘉男氏というのはこの本を読むまで知りませんでした。この本は友人から「貴女は絶対面白く思うよ」と勧められて「そうかな?」と思いながら購入しました。
読む前にネットで土屋嘉男氏のプロフィールを読み、医師の道を途中で辞めて、俳優になられたことや、俳優業だけではなく趣味も一流で多才な才能を持たれる魅力のある方と知りました。随筆も評判で何冊も出版され、フラメンコ・ギター、登山、スキー、モトクロスなどのアウトドアスポーツも万能、戦争の悲惨さも体験されていて、彼の思い出随筆を大変興味深く読みました。
小説や随筆などを読む時、背景が自分に馴染みの場所かどうかで面白さが全然違います。
土屋嘉男氏の思い出話の中には、私の馴染みの場所がいっぱいでグイグイ引き込まれました。
前半は彼の故郷山梨県塩山での思い出話です(昭和12,3年頃?)。勝沼のぶどう畑のことや、田舎で暮らすやんちゃ坊主の生活が書かれていています。
それから35年程後になるのですが、私が蓼科に山荘を建てたくて東京から通っていた時は、まだ中央高速道路が開通されず山梨で一旦一般道路に降りました。勝沼のブドウ園でブドウを必ず食べて、息子たちは畑田んぼで走り回って一休みした場所なので、彼の塩山の思い出生活にとても親近感を持ちました。
後半は土屋氏が山荘を建てたくなり軽井沢の候補地をやめて蓼科に建てられたいきさつや山の暮らしが、またまた共感でき楽しくなり一挙に読みました。
2017年2月に89歳で亡くなられたそうですが、晩年は蓼科ですれ違ったかもしれないと思ってますます親近感を持ちました。
私も含め周りは老人でいっぱいですが、老人は色んな思い出を個々に持っているんだなとも思わされました。