「風の中のマリア」 百田尚樹 著
孫の高校文化祭で1冊100円5冊で1冊おまけ。というのに飛びつき6冊手に入れたうちの1冊。
(前回紹介した「戦争童話集」もそのうちの1冊でした。)
「マリア」ということでキリストの聖母マリアかなと思って購入しました。
ええっ?1ページ目からの爽やかな美しい文章の流れにびっくり仰天。書き写してみます。
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第1章 疾風のマリア
マリアは木立の中を縫うように飛んだ。
太陽はまだ昇りきっておらず、深い林の中は薄暗かった。
林を抜けると、崖の上に出た。視界が急に開け、眼下に深く落ち込んだ谷が見える。
マリアは谷の上を軽やかに川下に向かって飛んだ。
東の空に朝日が昇ってくるのが見える。川面が太陽の光を受けてキラキラと光る。
陽射しを浴びて、体温が上がってくるのがわかる。背中の筋肉が温められるにつれて、翅の回転速度が上がり、飛行速度が増す。
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マリアは聖母マリアではなく、オオスズメバチのメスの働き蜂だったのです。
オオスズメバチ帝国を支える、たった寿命30日の働きバチの戦士であるマリア。
子を生み続ける女王蜂「偉大なる母」を守るために、恋もせず、子も産まず、命を燃やして闘い続けるマリアと働き蜂仲間。
赤ちゃんたちの食料を求め飛び回る。バッタ、トンボ、カマキリなど。食料を奪い合う敵はアシナガバチ、キイロスズメバチ、モンスズメバチとの熾烈な闘い。一番恐れるのは人間。それ故人間の集落には近づかない。
私は蜂を見つけると刺されたら大変と殺虫剤をシュー。山荘にスズメバチの巣を見つけた時は業者を呼んで駆除したこともある。
なんと酷いことをしたのか。無知を恥じるばかりである。蜂達にはそれぞれ守るべき帝国があり懸命に生きている。人間を襲うことはしない。殺されそうになったときに毒を刺し自分は死ぬ。
巻末の解説で昆虫に詳しい養老孟司氏が「極めて学術的に描かれていながら、同時に冒険小説のように力強く感動的なドラマ」であると絶賛しておられる。
蜂を擬人化した小説というより、人間を擬蜂化(?)したような気分になり蜂の世界にどっぷり浸からせてもらった素晴らしい小説でした。
養老氏が言っているように虫にも「意識みたいな活動」があるという研究もされているらしい。
う~ん。山川草木悉有仏性。考えさせられた小説でした。