火花

「火花」又吉直樹 著

お笑い芸人の又吉さんが2015年の芥川賞を受賞と聞いた時は驚きました。又吉さんへのインタビューで愛読書が太宰治というのも聞いて正直言うと少し驚きました。お笑いの人の愛読書に結びつかなかったからです。ベストセラーになった「火花」に興味があったけれど、タケシさんやタレントさんの書籍を読んで感動しなかったから購入しなかったです。恥ずかしながら完全にタレントさんに対する偏見でした。

又吉さんの漫才は聞いたことがなく彼のことを知らなかったのですが、その後、時々テレビに登場される又吉さんを知り大変好感を持ちファンになりました。なかでもEテレのヘウレーカという番組は大変おもしろい。又吉さんが自然界の不思議を専門家から説明を受ける番組です。これまでの放映ですごく感動したのは「隙間植物」についてと「蟻」についてです。そのことを研究されている専門家と街を歩きながら説明を受ける番組ですが又吉さんの口癖「うーん。なるほど。ふんふん。」といいながら、発せられる質問とか相槌が優れたお笑い芸人にしか出来ない発想がありとっても面白いのです。そして口調がとても物静かというところが高感度大。やさしい大阪弁がとても良い。さんまさんのようにやかましい大阪弁でないところが良い。

さて「火花」ですが、図書館で見つけました。

主人公の徳永が漫才を志し同級生の相方山下と組んで、東京に出て小さな事務所に所属しながらスパークスという名前で小さな舞台に立たせてもらいながら修行をする話です。熱海の花火大会見学の群衆の前に前座として設けられた舞台で、誰からにも無視され受けない漫才を披露していたとき、アホンダラという漫才コンビと同じ舞台になり、アホンダラの4歳年上の神谷さんに衝撃的に惹かれ師匠にしてもらうことから話が始まります。

徳永はスパークスとして東京で、神谷はアホンダラとして大阪の舞台を回りながら、二人は師匠と弟子の関係が続きます。二人の生活、二人の会話は漫才そのものの本質を突くものであり、私はどんどんひきつけられました。

「火花」は単なる人気ものになった漫才師のシンデレラストーリーではないです。生活苦を経て成功する話は当たり前。それよりか、お客さまが喜ぶ、驚かせる、笑わせるネタを血の汗を流しながらも考えぬく技。でもそれは頭で考えるようでは偽物、日常の生活、日常の会話は体から自然に湧き出る面白いネタとならないと本物にはなれないというストーリーです。

弟子になった徳永に著者はダブらせているようですが、時には神谷に著者の思いを紡いでいるように読まされました。

「火花」を読み、漫才師に隠された才能と努力にリスペクトする気持ちになりました。

でも、芸人さんの中で、人の体について冷やかして笑いを呼ぶことや、頭をたたいたりする仕草で笑いを取ったりするのは本物でないと思います。またそのことを笑う大衆にも同調できません。

今、又吉さんは相方と別れざるを得なくなり漫才をやめて小説家になられつつあるとか聞いてますが、軽い大衆におもねることなく、今の自分を大切にしてほしいなと思いました。

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