海辺の扉

「海辺の扉」 宮本輝 著 角川文庫(上下)

宇野満典は妻の琴美と3歳になる息子の晋介の3人で幸せに暮らしていた。ある日の夕食時、晋介が「レタスは嫌い」と言って口から吐き出したので、満典が「食べなさい!」と強要した拍子に晋介は椅子から落ちて頭を打ち死んでしまう。琴美は「あなたが殺した!」と半狂乱になり、満典も自念にかられ、自分が殺してしまった気持ちになり、二人は離婚し満典は5年の刑を受け服役する。5年後出所した満典は琴美に会いたくて2人の思い出の場所に来てほしいと琴美に連絡するが現れず、彼は逃げるようにギリシャに行く。法に触れるような怪しく危ない仕事をしながらも5年の月日が流れ、日本に移住したいという恋人が出来ギリシャで結婚する。先に満典だけが日本に帰るが心の底には琴美への思いがあり、琴美も満典のことが忘れられないことが分かり会う。

さてさてその先は読んで下さい。人間の生死について深く考えさせられる本である。

先日神宮外苑で行われたアートのイベントで痛ましい事故が起こった。某工業大学の建築科の学生たちが、おがくずで美しく装飾した木製のジャングルジムを作り、子どもたちに開放していた所、日が暮れてLED電気で照明していたのを、もっと明るくしようと一部白熱灯の投光器でライトアップした所おがくずがその熱で発火し遊んでいた5歳の幼児が焼死してしまった。助けようとした父親も怪我をした。

私の孫が工業大学の建築科を目指して受験勉強中であり目を引いた。白熱灯の照明機具が高熱を持つことは常識ではあるが、祭りをもっと盛り上げようと学術的なことを忘れてテンションがあがり、これを使えば効果が上がると安易に使用してしまったことは想像にかたくない。学生たちはおそらく子どもの頃ジャングルジムが大好きで子どもに還りワクワクしながら制作したのではないだろうか。今、学生たちはどんなに苦しんでいることだろう。悔やみきれないだろう。一生その重荷を背負って生きて行かねばならない。一方子どもを殺された両親はどんなに辛く悔しく悲しんでおられることだろう。父親は学生たちを恨むことより先に自念にかられ、母親は監督不行き届きだと夫を責めるのではないだろうか?両親も一生悲しみが消えることはない。

貧困から我が子を殺すとんでもない親の事件も後をたたないけれど、この親だってぬぐいさることの出来ない重い罪の意識を心の底に秘めきっと一生引きずっていくと思う。

 

病気の場合は医学の発達に夢があるが、暴力、殺人、災害、事故で子どもを失ってしまうのは慚愧に堪えない。大人たちが守っていかねばならない。

 

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