8月の6日間

DSCN1379「8月の6日間」 北村薫 著  角川文庫
先月から立て続けに中学からの友人を亡くしたりして、人間の生死を自分の問題として考えることが多く、気分的に落ち込んでいたので、軽い本を求めて買った。

主人公は雑誌の副編集長をしている40歳を少し超える独身の女性。
上司との関係や恋人との別れなどの煩わしい日々の出来事に鬱々している時に、山の魅力に出会った。グループの登山ではなく単独行である。その5回の山行の記録を日記形式で書いている。

★9月の5日間(燕岳から憧れの槍ヶ岳) ★2月の三日間(雪山ツアー磐梯山) ★10月の5日間(上高地から常念岳) ★5月の3日間(八ヶ岳白駒の池) ★8月の6日間(三俣蓮華岳、黒部五郎小屋)の5篇である。

冬の磐梯山のほかはいずれも私にとって登山経験のある親しい山々だったので、4季折々の自然の美しさ、険しい登山道のこと、山小屋の様子など手に取るように共感でき懐かしく楽しく読めた。山行きのための服装、携帯品、非常食などもきめ細かく記されていて完璧であり落ちこぼれはない。北アルプスの峰々を思い出してワクワクした。

しかし重要な事は、この本は登山の案内書ではないということである。
周りの景色の美しさに目を奪われ、息を切らせて登る登山道を歩きながら絶えず彼女の頭に浮かぶのは過ぎ去った楽しい思い出や悔やまれる体験である。
登山というのを媒介に主人公の生き様が自然に描かれている。それがこの本のテーマなのです。

このように一見紀行文の形に見せながら、人の心の深さを見事に小説に表すことの出来る北村薫の筆力には感服した。

巻末の解説で北村さんは一度も山に登らずこの本を書かれたと暴露されていて心底驚いた。信じられない。
凄いの一言である。

面白かった。癒やされた。

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