キャパの十字架

【キャパの十字架】 沢木耕太郎著 文春文庫
kuzureotiru戦争のフォトジャーナリストのロバートキャパを、一躍有名にさせたスペイン動乱における「崩れ落ちる兵士」の写真が、本当に彼が撮った写真なのかを探求するドキュメントストーリーである。

「崩れ落ちる兵士」は1936年に勃発したスペイン内戦のさなかに撮られた一枚である。
スペイン内戦はこの本の説明によると、左翼並びに正式な選挙で選ばれた人民戦線政府に対し、フランシスコ・フランコ将軍ひきいるところのファシストと王党派とローマ・カトリック教徒の連合した右翼が戦いを挑んだものということである。結果はフランコ側の勝利に終わったがその後のフランコ将軍による虐殺えげつない独裁で、敵味方双方に壮絶な犠牲者を生み出し世に残る悲惨な戦争になった。内戦について詳しい経緯も説明されているが私の頭では掴み取れないややこしさである。
恥ずかしながら私の知識は人並み以下のもので、スペイン動乱についての知識といえば映画ヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」とピカソの「ゲルニカ」とキャパの「崩れ落ちる兵士」のみだった。

写真は私の趣味のうちの一つで、戦地における報道写真に関心があったからキャパのことを知っていただけで、敵の砲弾を受けて倒れるところを捉えた写真を見てすごいなと単純に思っていた。
この写真は当時いち早くアメリカの週刊誌ライフに掲載されて戦争の悲惨さを世界に広めたという。
しかしその後その写真の真贋について色々の意見がなされ、なにかと話題になっていたそうだ。
沢木耕太郎氏も常々同じ疑問を持っていたことでそれを確かめようと行動にうつしたのである。
実際のその現場に直接足を運び、キャパの足跡を辿り、関係者を訪ねて世界を駆け巡り書かれたドキュメントである。20年以上もかけて調べた結果は「崩れ落ちる兵士」はキャパのヤラセ写真だったということを突き詰めたのである。

しかしまだ無名だったキャパにしても、あの写真がそんなに有名になるとは予測出来ず同情の余地がある。写真が勝手に動き出し、キャパが兵士に頼んだヤラセだったとか、写真見習いの恋人ゲルダが写したとも弁明できなくなり、沈黙を守り通すことになってしまい、重い十字架を一生背負うことになったようだ。
ゲルダはその1年後戦車に巻き込まれて死に、キャパはその後戦争フォトジャーナリストとして約18年間活躍した後インドシナで地雷を踏んで死ぬことになり真相を語られることはなかった。

一枚の写真からは、その場所その時間カメラの位置被写体の状態など確定できる。
私はホームページでネパールで撮った写真を掲載しているが、時々同伴者のモティさんが撮った写真を撮影者の名前を忘れて載せることがあったり撮影場所や村の名前もうろ覚えで書くこともあった。
今後何か事件が起こった時そのようなあいまいな記述から問題を引き起こすこともありうるかもしれない。
これからはもっと真剣に気をつけないといけないと思い知らされたことであった。

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