「絶対不可能」と言われてきた農薬ゼロ有機肥料さえ一切使わずのリンゴ栽培を、9年に及ぶ苦労の末に成功させた木村秋則さんの実話である。
収入はなくなっても、家族もお父さんを支えてくれ、極貧生活に耐え、試行錯誤を繰り返し執念で成し遂げた。場所は青森県岩手山の麓である。
その苦難の道のりがNHK「プロフェッショナル仕事の流儀」で取り上げられ、大反響を呼び全国から注文が殺到し予約は1年先まで埋まり、今では手に入れるのは難しくなっているそうだ。
もうそのお味ときたら、ただ甘いとかみずみずしいとか言うだけではなく、本来のリンゴの味、と言うことだけれど、私は本来のリンゴの味を知らないから想像しか出来ない。
番組のキャスターを務めた脳科学者の茂木健一郎さんの言葉を借りれば「薬漬けでもなく、肥料によってささえられることもなく、自然の中で生命としての本来の力を発揮することで生まれる「奇跡のリンゴ」であり、ひとつの見事な生命哲学の果実である。」ということである。
茂木健一郎さんからのたっての要望で、ノンフィクションライターの石川拓司氏によって1年半の取材を続けられて書かれた木村さんの苦悩と情熱がリアルに伝わるノンフィクション本である。
木村秋則さんの役を安陪サダオ、奥さんの役を菅野美穂で映画化され評判にもなった。
「奇跡のリンゴ」が簡単にスーパーで手に入らないのは分かるけれど、市販されているリンゴは農薬まみれかと思うと悲しくなってしまう。ここまで評判になっているのにリンゴ農家が無農薬栽培リンゴに取り組まないのは、そのことは不可能になってしまっている現状があるからだろう。
高原野菜を無農薬で栽培することの難しさを体験している私は、この本を読み、自然の中で営まれている草木の命虫たちの命と真剣に会話し戯れて共存する木村さんの姿に、ただ感動して唸るだけであった。