「苦役列車」 西村賢太著 第44回芥川賞受賞作
著者は、同時に芥川賞を受賞された朝吹真知子さんと生まれ育った境遇は天と地の差があります。
朝吹さんは代々フランス文学の名門育ちで慶応大学大学院で近世歌舞伎を専攻という。
かたや西村さんは「中卒・逮捕歴あり」こそが、わが財産と言い放し苦難連続の生活を過ごしてこられたという。
自分の恥をさらけ出して書くという私小説家に徹するという西村氏。
「苦役列車」は、評者の島田雅彦さんの記述によると、<古い器を磨き、そこに悪酔いする酒を注いだような作品>ということになるがそれはちょっとわからない。
人間の卑しさと弱さを自虐的に延々と描いている。家賃を滞納しながらその日一日食べていけるだけの日雇い労働者からどうしても抜けられないダメ男の日常の話である。
昨日紹介した朝吹真理子さんの「きことわ」も、それがどうしたんというように、ストーリー性があまりなかったように、「苦役列車」も思えばそれがどうしたんという話といえる。
前者の「きことわ」の生活背景は想像できるのだけれど、後者の主人公貫多の生活は、私にはまったく接点のない生活なので「へ?え。そういう生活からどうしても抜けられない人もいるんだ」ということで終わってしまう。小説の背景となる世界を知らない人々を引き込むためには、意外な展開や想像を絶する事件が起こったりしないと小説としてどうかなと思わされた。
ちょっと面白かった発見は、自虐的でえげつないダメ男の貫太が自分のことを「ぼく」蕎麦の事を「お蕎麦」刺身のことを「お刺身」と言っているのがなんとも可愛げが感じられて、どんな投げやりな生活をつづけても彼は人を殺したりはしないのだろうなと思った。
受賞者インタビューで、朝吹真理子が「西村さんといっしょの受賞で心強いです。」とおっしゃっているのはどういうことか知りたいなと思った。
結論として今度朝吹さんの本より西村健賢太さんの本を読んでみたいと思った。
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