「きことわ」 朝吹真理子著 第144回芥川賞受賞作品
「きことわ」とは一体どんな意味かと思ったら実に他愛のないものだった。主人公の二人の名前が貴子さんと永遠子(とわこ)さんということだったからだ。あ、他愛もないと言っては作者に申し訳ない。貴子さんは貴子さん、永遠子さんは永遠子さんと言う名前以外には考えられない思いが込められています。
貴子は8歳、永遠子が15歳。神奈川の葉山の別荘に夏になると東京からやってくるのが貴子。別荘番の娘が永遠子。二人は大の仲良しで海で遊び部屋で遊び絡み合いもつれ合ってはしゃぎまわるほどの仲良し。でも貴子の母親が心臓病であっけなく亡くなってから葉山におとずれることがなくなり関係は途絶え別荘は空き家になってしまった。それから25年たち貴子は別荘を売却することになり二人は25年ぶりに会う。
25年の間にそれぞれ体験するきっと苦しかったであろう出来事もさらりと交わされて何事もなかったように二人の心は寄り添う。
その二十五年ぶりに再会した二人の過去と現在を、夢と現実の境を行き来する形で描いた小説です。
現実の中に夢のようなふわふわした情景が組み込まれていて、その夢と現実のもやもやと交わる描写がこの小説の主題といえるかもしれない。そのもやもやが違和感がなくかかれている。
夢というのは寝ている時に見る夢もあるけれど、普段の生活の中で突如目前に現れる夢のような錯覚というか物陰に誰かが又は何かがす?と動いていくという感覚。それは決して奇怪なシュールリアリズムではなく不思議なことに凄く実感として共感できた。
読者にとっては「それがどうしたん?」というような頼りない物語と思う人も多いのではないかと思うんだけれど私はとても面白く読んだ。
作者の育った環境にもよるのでしょうがこの作品にはグロテスクなところが全くなく清潔で品格がある。私にも貴子と永遠子の関係のような体験があり読んでいて懐かしい気持ちにさせられた。
今回の芥川賞は朝吹さんともう1人西村賢太さんの2作品で、二人は全く異なる生い立ちで作風も違うというので、次に西村さんの「苦役列車」を読んで比べてみたいと思います。
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