「長きこの夜」 佐江衆一 著
著者が体験された父親介護の経験をもとに、男の老醜、悲哀、を、7編の短編小説に美しくまとめた本です。
第一話「風の舟」は亡き父の介護を描かれたものであとの6話は書き下ろし。
15年ほど前に、著者の両親の介護の苦しさやるせなさを描かれた「黄落」を読んだとき衝撃を受けたのですが、あのときの大変な父親を、あのあと97歳まで介護され見取られた戦いを知り胸に迫り同情してしまった。
女の老醜は、同性として分かりやすく自戒を込めて読めるけれど、今回知った男の老醜にはたじろぐばかりです。
夫もこのように老いて行くのか?私が先に死ぬとして、息子は父を著者のように介護出来るのかしら?
著者は父親に対し憎しみを感じこそすれ情愛は無くなってしまっているけれど捨てきれないという苦しさ。
・ ・・・・・・・・・
私はやさしい言葉のひとつもかけられぬどころか、憎悪が皮膚を破って突き出てくる。―中略―(ああ、早く死んでくれないか)。私の心の暗闇に棲む鬼が呻いているのだ。
・ ・・・・・・・・
と、思いながら、憐憫の気持ちと自分もいずれこのように、、と思う気持ちで修行修行と自分に言い聞かせながら介護を続けられます。
この本は介護する側からかかれてはいるけれど、介護される側の男性が老いるにつれて否応なく陥ってゆく姿を克明に正直に追っています。
人生の黄昏を、悲哀とある意味豊かさをも感じさせられた良書でした。
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