「老乱」 久坂部羊著 朝日新聞出版
本書帯より・・他人事ではありません! 老い衰える不安を抱える老人。介護の負担でつぶれそうな家族。地獄のような日々から、やっと一筋見えてきた親と子の幸せとは、、、、。
「やっと見えてきた幸せ」というのは残りの数ページです。ほとんど地獄のような生活描写ですが最後の数ページで救われます。救われるかも、、、です。
主人公幸造78歳は5年前に妻を亡くし、1人で自由に支障なく自活している。近くに息子知之家族が住んでいる。ある日嫁の雅美が新聞で、認知症老人の数々の事故のことを読み、にわかに舅のことが心配になる。認知症老人が事故を起こすと家族に賠償責任が生じるなどの記事である。
その頃から幸造のところを頻繁に訪ねて生活のチェックをする。幸造は最初は訪ねてくれる嫁を歓迎するが、監視されているようでありがたがらず、またうっかりミスも増えてくる。
だんだん認知症であることがわかり雅美は夫知之とで認知症を治すべく奔走する。幸造は考える力もある老人だったが自分の老化、認知が信じられない。まだらボケからしっかり認知症(レビー小体型)となり、雅美の奮闘で施設に入ってもらうため幸造の家を売ったり、試行錯誤しながらの騒動で、最後は施設から家に迎えて亡くなる。
という長編小説である。
作者、久坂部羊は高齢者を対象とした在宅訪問診療医でもあり、認知老人を取り巻く医療現場を熟知されていての小説で、読者も自分の問題として深く考えさせられる。
「老乱」は2016年に発行されているが、雅美のように自分の生活を全部舅のために捧げる嫁がいるのだろうか?
現在、5年後のコロナ禍のなかで認知症老人、認知症の親、認知症の伴侶を抱えて右往左往されている方も多々おられるだろう。雅美のように紛走してくれる家族がどれだけいるのだろうか?
私にはいない。不安である。私は幸造の不安に重ねて読んだ。