「白秋」 伊集院 静 著
まことに清純で美しい恋愛小説でした。
背景は鎌倉。鶴岡八幡宮、円覚寺、由比ヶ浜、江ノ電、鎌倉山に咲く野の花。屏風絵のような静かな世界。
そこの築山を構える一軒家に一人の27歳の心臓を患った美青年宋信也が療養している。
付き添いは若いときに医者に蹂躙されて以来男性を受け付けない40歳に届くという美しい看護師松居志津が彼のためには1生を捧げるつもりで行き届いた看病をし生活している。
そこにひょんなことから近くの著名な華道師匠衣久女の愛弟子のこれ又美人向川文枝22歳が彼のところに花をいけに通うようになる。
看護師志津が信也を慰めるつもりで最初は頼んだのに信也と文枝は恋に落ちる。
志津は自分でも思いがけず強い嫉妬に苦しむようになり文枝を信也から遠ざける策を練る。
信也は余命いくらもないので文枝から離れようと一度は試みるが二人の絆は強く、ある日信也は身の危険を顧みず二人は逢引をし、信也はその10日後に死ぬ。
さて文枝と志津の運命はいかに、、、。
情緒あふれる鎌倉の風景。海。里山。彼女が生ける山野草に花器。
伊集院静の花の描写は見事である。私は山野草が大好きなのでよく分かった。
鎌倉も何度か訪れているので夢のような風景のイメージも湧いた。
その上伊集院の衣服のセンスというか着物の描写も素晴らしい。
大体、恋愛小説は私の好みではないんですが、【白秋】はとても面白かった。
伊集院静の文章は短く滑らかで、なのに短い言い回しの中にとても深い情景を生み出しているところがとても好きです。
私の心に残った、野の花についてと花器についての会話、、
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「こんな所にあなたは咲いていたのね。山野の花はたとえ人に姿を見られなくとも咲いて、花の生涯を終えます。」(文枝)
「この世で一番美しい器は人間が水を掬って飲む時に両手でこさえる器だよ。10人いれば10の器があるんだな。3歳の少女だっていとも簡単に両手を合わせて美しい器をこしらえてしまうんだ。
その器にはたくらみがないからですよ。たかだか一人の人間がたくらんでこさえたものなど、大したもんじゃあないんだよ」(信也)
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恋愛小説で感動したのは久しぶりでした。