「露の身ながら」 多田富雄と柳澤桂子の往復書簡
国際的に著名な免疫学者の多田富雄氏と遺伝学者である柳澤桂子氏の往復書簡です。
多田氏は、研究発表で世界を股に掛けて飛びまわり活躍中の2001年の春、出張先の金沢で、突然脳梗塞の発作に見舞われました。何日か意識不明の後に、目覚めた時は、右半分の完全な麻痺に加えて声を失い、嚥下障害で水さえ飲めなくなり、重度の障害者になってしまわれました。
柳澤氏は、三菱化成生命科学研修所で、マウスを使って大発見に繋がるかもしれないというT遺伝子の研究に本腰をいれようとされていた時に、原因不明の病気にかかり研究を断念し、病気の原因がわかるまで32年間もベッドから離れられない生活を強いられ、病名が分かってからも病気は治らず闘病中なのです。
そのお二人の往復書簡は、お互いの身体を労わりあい、介護される身の辛さを嘆きながらも、家族愛、遺伝子、オペラや能、芸術、宗教、戦争と平和について多肢に渡り知的で格調高い対話が交わされます。
子供の頃から多くの困難に会って生活してきた人々は、逆境に強く逞しくて、ある意味羨ましく思うことも多いです。これまで、ぬくぬく暮らしてきた私なんかは、いくつもの困難を抱えながら逞しく生きていかれる人々を知るにつけ、この先、老い、どんな病気や境遇に陥るか、はたしてそれを乗り越えていけるのか、不安になることがあります。
お二人は病気になるまでは、家庭にも才能にも恵まれ、多くの人々から尊敬され、お幸せな毎日だった訳で、突然の病気にどんなに苦しい思いをされたか想像に難くありません。でも、お二人は重度の病気という重石を背負いながら、自分の研究に状況を重ねて不自由な身体を冷静に分析し、挫けず乗り越えていかれる姿には、とても感動しました。
二人とも、戦争の愚かさ、地球・人類の危機、についても、真剣に憂いておられ、不自由な身ながら、アピールしていく方法を考え実行していかれるところにも感動しました。
私もこの先困難に陥った時はきっと励みになるだろうと思わされました。
あなたにも、是非とも読ませたい本です。
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