密やかな結晶 小川洋子著 講談社文庫
舞台は、例えばイギリスの郊外の森林や田園や古い街並みをしっとり感じさせるような、ある架空の島での出来事です。
そこの島では、秘密警察によって、ある日突然強制的に物の存在が失われ、人々の頭からもその記憶が失われて人々の頭の中はその部分が空白になっていく。
島からなくなっていくものは小鳥であったりリボンであったりバラの花であったり小さいけれど掛け替えのないものである。
失われるものは、その日の朝突然、秘密警察から島の住人に告げられ、人々はそれを家から持ち出してきて川に捨てる。秘密警察はそのものを隠している可能性のある家にどかどか土足で踏み込み家中からそれに関わるものを押収しゴミ袋にいれ持ち去る。
剥奪された人々は見る見るうちに捨てられたものの記憶を失ってしまう。
中には記憶を失わない人もいてその場合は記憶狩りの秘密警察に捕らわれどこかに連行されてしまう。
島では物がなくなる速度と作り出される速度の差が広がり島からは活気が失われてゆく。
さて結末は、、、、、?
著者は中学生の時、ゲシュタポに連行され殺されたアンネ・フランクの日記を読んで感銘を受け小説家になるきっかけになったと、どこかで読んだことがあります。
地球に生きる(存在する)ものが私欲にかられた権力でもって強制的に抹殺される恐ろしさを、著者は鎮めた口調でファンタジックに記述する。
しみじみ考えさせられる良書でした。
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似たようなテーマの映画をいくつか思い出しました。「忘れる」というのは悲しい事です。認知症の母たちとのつき合いで、時々そんな思いをします。介護度で言えば義母は4、実家の母は1です。
程度の差こそあれ、私にとって大切な人たちと共有していたモノが少しずつ無くなっていく・・・そんな事をBreezeさんの感想を読みながら思ってしまいました。感想の感想ですね。
8月になりました。8月の暑さには悲しみの色が底にある・・・毎年思う事です。たとえ悲しい思い出であっても、忘れたくない事がありますね。
路子さん。コメント有難うございます。
どんどん「ものわすれ」が進むお母様たちとのお付き合いを本当によくされて頭がさがる思いをしています。その尊敬の念を言葉では表せないです。
思えば<忘れる>ことって不思議な現象です。
<忘れる>のは無意識に起こるものです。<忘れたいこと>は自分でいくら努力しても忘れられないし、人に<忘れてほしい>ことも無理に忘れてはもらえません。
自分が<忘れた>ということを忘れた場合は本人は気楽です。でも周りのものから「忘れたわよ」と言われると、自分ではその思いはないし信じられなくて辛くなるでしょうし、勿論周りのものにとっては悔しく苛立ち、辛いです。
この小説「密やかな結晶」はその無意識に忘れるという人間の当たり前の意識を強制的にさせられた場合どうなるかということから、人間の<忘れる>という不思議な機能を考えさせられるのです。
歳をとり、忘れる機能が自然に過度に起こってくる現象は、人間として当たり前のことなのです。だからその現象を強制的(人工的)に行うのは恐ろしいことなのです。
<忘れる>という人間の機能は神様が「良し」と思って造られたのでしょうね。
といっても年々忘れることが多くなった自分を哀れみこそすれ感謝の気持ちにはなれませんわ。