「回転木馬のデッド・ヒート」村上春樹著 講談社文庫
「事実は小説より奇なり」という言葉があるが、普通に暮らしている人の生活には、私が考えたり想像したこともないような事実がある。
村上春樹は言う(書く)。
[ここに収められた文章は原則的に事実に即している。僕は多くの人から様々な話を聞き、それを文章にした。もちろん僕は当人に迷惑が及ばないように細部を色々といじったから、まったくの事実とはいかないけれど、それでも話の大筋は事実である。話を面白くするために誇張した所もないし、付け加えたものもない。僕は聞いたままの話を、なるべくその雰囲気を壊さないように文章にうつしかえたつもりである。]
ということで、この本には8つの短い聞き語り風小説がある。
1.「レーダーホーゼン」・・妻の友人から聞いた話。(レーダーホーゼンというのはドイツ人の男が履く皮製の半ズボンのこと)
2.「タクシーに乗った男」・・女画商から聞いた話。
3.「プールサイド」・・スポーツクラブのカフェテラスでテーブルで一緒になった男から聞いた話。
4.「今は亡き王女のための」・・王女様のように育てれた非の打ち所のない同級生の話。
5.「嘔吐1979」・・一時期働いていた雑誌社の同僚からの話。
6.「雨宿り」・・一緒に飲んでいた女の子から聞いた話。
7.「野球場」・・原稿を読んでほしいと持参した青年からの話。
8.「ハンティング・ナイフ」・・妻と海のリゾートのコッテージで休暇を過ごしていた時の隣の部屋に滞在した車椅子の青年からの話。
という8編である。
村上春樹という優れたインタヴューアが上手に話を引き出し文章にまとめたという形式だけれど、私は彼の創作だと思うなぁ。
都会の街角で、回転木馬のように現れては過ぎ去っていくありふれた人々が、個々に持つ人生を、スケッチするようにサラサラ書く村上春樹。
素晴らしい文章。ノーベル賞ものだと思うけれど、翻訳されたものではこの味を味わうことは出来ないでしょうねぇ。
秋の夜長にさらりと読むには最高の本です。
読ませていただき、面白そうと思ったので図書館で予約しました。運の良い事に貸し出しはされていなかったようで、明日にでも図書館に行けば貸して貰えそうです。
このところ、野暮用が多かったのでのんびり読書の秋を楽しむ余裕はなかったのですが(そのくせ海外ドラマのDVDは見てましたが)久しぶりに村上春樹さんの世界を楽しみたいと思います。
Michikoさん
コメントありがとうございます。
読んで後悔しないです。
今日友達も、読んでみたいと言うので本を貸しました。
8編のうちどれが一番面白かったか教えてくださいな。
友達からも聞きます。
私は、、、2人のお答えを聞いてからお答えしましょう。
小説と言うよりスケッチというのは当たっていました。どの作品もオチが用意されていませんが、でも世の中とか人生とかって「はい、お終い」と言うことはなかなかないのかも。そういえば、4月に読んだ「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」も続きはどうなる?という終わり方だったような。
どれが一番というのは難しいですけど、「嘔吐1979」とか「野球場」の話手に共感というか「わかる気がする」と思いました。
「今は亡き王女のための」については、私だったら現在の王女がどうしているか確かめられるチャンスがあるのなら確かめたいと思ってしまうだろうなぁと思いました。
Michikoさん、どれも面白かったでしょう?
どんでん返しのようなオチはなかったけれど、話の結びは春樹さんならではの余韻を残してくれましたよね。
私の友達が選んだのは、あなと一緒「野球場」と、も一つは「レーダーーホーデン」でした。
「野球場は」女を観察する男の心理描写が絶妙。
「レーダーホーデン」は離婚を決心する時ってあんな時なんだぁと思わされた。
とのことでした。
私は、「今は亡き女王のための」というのと、最後の「ハンティング・ナイフ」です。
「今は亡き、、、」の方は、身近に、かって女王のように育てられた友人がいるので、(まだ亡くなっていないのですが、)なるほどなるほどと興味深く読みました。
「ハンティング・ナイフ」は、海辺の情景が、かって行ったことのあるドミニカ共和国のリゾート海岸を思い出させ、あの時場違いだった私は、ここに長期滞在するお金持ちってどんな人たちなんだろうと思ったことがあるので、興味深く読みました。
本は、私自身の体験が重なって面白い時や、自分が想像も出来なかった世界に導いてくれてワクワクさせてくれるのと両方あります。
村上春樹はその両方を魅力的に書いてくれる作家で引き付けられます。