やさしい訴え

「やさしい訴え」小川洋子著
久々の小川洋子。
主人公の瑠璃子の語りで話が紡がれる。
瑠璃子は暴力と浮気の夫から逃れ、父親が遺した古い信州の別荘に逃げ込むところから話が始まる。
別荘の近くに、チェンバロの制作者の新田と助手の薫と1匹の老犬が住み、黙々と仕事をしている作業所がある。
新田と薫はチェンバロを通して深い絆で結ばれているようだが、瑠璃子は不思議な新田の魅力に引き込まれ気持ちを止めることが出来ない。新田も薫も何か重い過去を持っていてチェンバロの音楽で癒やされている。
夫との離婚と三角関係。泥沼のような恋愛関係が展開されているはずなのに、そこにはチェンバロの静かな響きが森にいつも流れ、清らかな世界をかもし出しているような感じがする。
小川洋子が作品でえがく彼女独特の森の風景、湖水を囲む白樺林、霧が沸き立つ山の頂、そして音楽は、いつも私の心を静めてくれる。
「やさしい訴え」は全体に流れるチェンバロ曲のひとつだが、その曲を知らないけれど聞き惚れてしまう。
ややこしい恋愛関係をここまで清く書かれた恋愛小説を私は知らない。

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やさしい訴え への2件のフィードバック

  1. Michiko のコメント:

    Breezeさん、今年も宜しくお願いします。
     小川洋子さんにハマりはじめの頃に読みました。独特の世界ですよね。パグの老犬が出てきませんでしたっけ。それなりに重要な役所だったような。
     ラモーの「やさしい訴え」はyoutubeで聞けます。
     http://www.youtube.com/watch?v=dAHypDWG_f4 です。
     小川洋子の「妊娠カレンダー」はお勧めです。

  2. Breeze のコメント:

    michikoさん
    あけましておめでとうおございます。
    本棚を覗いてくださってありがとうございます。
    今年もよろしくお願い申し上げます。
    そうです。老犬は薫が飼うドナという名前のパグ。情けなく老いて人見知りをするパグですが、妙に瑠璃子にはなつき、チェンバロの澄んだ響きとヨロヨロのドナが3人の関係をうまく取り持っています。
    小川洋子は動物がお好きみたいですね。作品に出場する生き物には、愛情がこもっています。妊娠カレンダーはずっと前に面白く読みました。動物もですが、微妙な姉妹の関係をよく取り上げられますね。私には姉がいますので、その辺の微妙な関係がよく分かっておられるのでいつも驚きます。
    久しぶりの小川洋子でしたが、私の好みベストワンかな。

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